月: 2020年6月

気になる日本の製造業の2カ月先の見通し

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6月30日発表された5月鉱工業生産指数速報は前月比8.4%の低下。市場予測を下回った。 

4カ月連続の前月比マイナスで、水準は2015年基準では最低を更新。全業種が減少。特に、自動車、液晶製造装置など機械、鉄鋼が新型コロナウイルス感染拡大の影響による受注減で減少。5月は、4月よりも幅広い業種で減産が進んだ。 

一方、生産予測指数は6月が前月比5.7%上昇、7月が同9.2%上昇。

自動車の大幅な生産調整が幅広い業種に波及。自動車業界の生産調整の程度は6月、7月と改善する生産計画となっており、生産予測指数は改善を予想している。

なお、それぞれの指数の概要について経済産業省のページで説明されている。以下、抜粋。

<鉱工業生産指数>

<生産予測指数>

鉱工業指数は景気に敏感で、(伝統的な統計の中では)速報性があるため、足元の経済状況を把握する上で、有益である。また、生産予測指数は生産計画をもとに先行き2カ月の生産を予測するもの。

ただ、最近企業は新型コロナウイルスによる影響を生産計画に精緻に織り込んでおらず必ずしも保守的でない可能性も。5月の生産実績は計画の2倍もマイナス幅が下振れ。

このため、生産予測指数を保守的に読む必要があるかもしれない。外需依存の側面がある一方、外需を支える外国のマクロ経済においても新型コロナウィルス感染第2波への懸念が個人消費の重しとなる可能性が高い。

例えば、米国経済の国内消費は、このままでは7月以降、国内所得の減少へと進み、さらなる景気刺激策が求められる可能性が高い。

足元の相場では、特に製造業セクターへの投資は慎重に行いたい。

気になる東証マザーズとNASDAQ100の比較

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2020年6月29日の東証マザーズ指数は3営業日続落。米株安の流れに加え、国内外での新型コロナウイルス感染者の増加が伝わったことなども重しに。日経平均と同様にマザーズ指数も下落し。後場にさらに日経平均が崩れると、マザーズ指数も下げ幅を拡大。

株式市場と実体経済の間の乖離があるため、引き続き調整局面が続く可能性がある。かねてから狙っていた銘柄のフェアバリューと比べて想定的に魅力が増してきていることを慎重に確認したい。

東証マザーズ指数と米国のNASDAQ指数が同じようなコンテキストで比べられることが多いので、東証マザーズETF<2516>とNASDAQ100連動ETF<1545>のETF設定来の株価の変動を描いてみた。

青い線が日次のパフォーマンス、赤い線がETF価格を表している。上下のグラフの赤い線を見比べるとかなり違う値動きをしていることが分かる。なお、NASDAQ100連動ETF<1545>は原則為替ヘッジを行っていない。

ここでも、成長エンジンをどのタイミングで何にするのかの投資判断が重要であることを確認できる。

気になる米国の個人消費

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米商務省が26日発表した5月の個人消費支出(季節調整済み)は前月比8.2%増と、統計を開始した1959年以来の大幅な伸び。一方、所得は減少し、貯蓄の取り崩しとなった。7月から数百万人が失業支援を受けられなくなるため所得が一段と減り、残念ながら個人消費の勢いは続かないとみられる。

個人消費は米経済の3分の2以上を占める。個人消費(国内消費)とGDPのこれまでの四半期ごとの動き(それぞれ年率化)については以下のグラフを参照。ほとんど同じように動いていることが見える。

4月は12.6%減と、過去最大の落ち込みを記録した。5月の個人消費の増加は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために3月中旬以降事業を停止していた企業が再開したことを反映。

これまで自動車や娯楽用品が好調だったほか、ヘルスケアと外食、宿泊も伸びた。このところの米経済指標では、住宅着工、工業生産、製造業受注などに関するものが堅調。新型ウイルス感染拡大抑制策による落ち込みは底を打った可能性。ただ、足元、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州など人口が多い州を含む一部地域で感染が再拡大。始まったばかりの回復には、新型コロナウイルス感染拡大の第2波のリスクがある。

個人消費支出は前月比8.2%増であったものの、個人所得は4.2%減。これは2013年1月以来の大幅なマイナス。4月は10.8%増と過去最大の伸びを記録していた。この大きな動きは、政府による新型コロナ関連の支給が背景。
4月は新型コロナの打撃を和らげるために政府が何百万人もの人を対象に1200ドルを支給したほか、失業保険手当を拡大したことが所得を押し上げた。現金支給は政権が導入した約3兆ドルに上る過去最大の財政政策の一環。一方、5月の所得減少は、政府による新型コロナ関連の支給が減ったことを反映。政府は7月31日に失業保険手当てを週間で600ドル追加する対策を停止予定。エコノミストは約2600万人が全く収入の状況に追い込まれるとの見方。6月第1週時点で、労働力の5分の1に相当する約3060万人が失業保険を受給。政府から家計への資金の移転は5月に1兆1000億ドル。4月は3兆ドルだった。

家計は5月に貯蓄を切り崩した。5月の貯蓄率は23.2%と、過去最高水準を付けた4月の32.2%から低下。エコノミストは、新型ウイルス感染拡大を巡る先行き不透明感が高い中、消費者の間で貯蓄性向が強まる可能性があるとの見方を示している。

以上をまとめると、個人所得は今後、新型コロナ関連の支給が減ることにより減少する可能性が高い。また、貯蓄率も新型コロナウイルス感染拡大をめぐる先行き不透明感から高まる可能性。これらの結果として、個人消費は弱含む可能性がある。個人消費は米経済の3分の2以上を占める。このため、米国のGDPも落ち込む可能性がある。この流れを弱めるためには、追加的な政府による景気刺激が必要と思われる。

米経済は第2四半期に最大46%のマイナス成長に陥り、落ち込みは1930年代の大恐慌以降で最大になる見通し。第1四半期の米経済成長率はマイナス5%と、2007-09年の大不況以降で最大の落ち込みであった。

株式のバリュエーションと実体経済の回復プロセスとの乖離について、今後の相場では注意してみていく必要がある

気になる確定拠出年金での運用のエンジン

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個人型確定拠出年金の運用をされている方もいると思うので、国内株のアロケーションで候補となりうるファンドのうち、2020年5月末時点で5年積立リターンTOP3をご紹介する。

ランキングの出所はiDeCoナビ(運営:特定非営利活動法人 確定拠出年金教育協会)。毎月一定額の積み立てを想定。以下の数字は、5年積立リターン。

1位 DCダイワ中小型株ファンド 33.79%
2位 MHAM日本成長株ファンド<DC年金> 30.98%
3位 スパークス・新・国際優良日本株ファンド(厳選投資) 25.32%

ここで、第1位のDCダイワ中小型株ファンドと、第2位のMHAM日本成長株ファンド<DC年金>について、2006年9月からの非常に長い期間の月次のパフォーマンスと累積パフォーマンスをグラフにしてみた。

右側の赤色の第2軸が累積リターンを表しているが、上下のグラフでy軸の範囲が違うことにご留意いただきたい。

しっかりとしたファンドを選ぶことで資産運用のエンジンとできることが分かる。中小型株や成長株だと、リーマンショック時の下落とその後の民主党政権での低迷に加え、2012年安倍政権になってからのアベノミクスの恩恵をしっかりと受けていることが確認できる。

成長のエンジンの選択とタイミングが重要である。

気になるAIと誤認逮捕

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6月25日のロイター社の記事によると、人工知能(AI)を使った顔認識技術を手掛ける米企業ランクワン・コンピューティングは24日、米国内で初めて報告された同技術の誤判定による不当逮捕事件で、同社のソフトウエアが使われていたのを受け、悪用を防ぐための対策を取ると表明。

発端は2018年10月に起きた窃盗事件。

ブランドショップとして知られるミシガン州デトロイト中心部の高級店「シャイノラ」で、時計5点、計3,800ドル(約40万円)分が万引きされた。

監視カメラに写っていたのは、赤い野球帽をかぶった大柄で黒い服をきた黒人男性だった。

地元のデトロイト市警察は事件発生から5カ月後の2019年3月、この監視カメラ映像の鑑定を、ミシガン州警察に依頼。州警察では、4900万枚の顔画像で構築した顔認識システムSNAPを使って、映像の人物の鑑定を行った。

その結果、SNAPが映像の人物と合致する顔画像の一つとして判定したのが、ウィリアムズ氏の免許証の顔写真であった。

さらに4カ月後の2019年7月、この判定をもとに、ウィリアムズ氏の顔写真を含む6人の面通し用顔写真を作成。シャイノラの警備員に見せたところ、警備員がウィリアムズ氏を特定。

その半年後、事件発生から数えて1年3カ月後となる2020年1月9日、デトロイト市警がウィリアムズ氏を逮捕。

ウィリアムズ氏が「黒人が全員同じに見えてないといいのですが。」と発言すると、警察は困惑。画像の人間とウィリアムズ氏が一致しないと考え、「コンピューターが間違えたんだな。」と言ったという。逮捕から30時間後の1月10日夜、ウィリアムズ氏は釈放。

デトロイトの警察はウィリアムズ氏の誤逮捕についてコメントを控えたが、現在は顔認識技術の使用を凶悪犯罪と家宅侵入に限定していた。

ランクワンのブレンダン・クレアCEOは「当社の倫理規定に違反する当社ソフトの使用に対して使用許可を取り消す法的手段を確立し、悪用を阻止するためソフトに搭載する追加安全策について技術的な検討も行う」と表明した。 

ニューヨーク・タイムズによれば、ミシガン州警察の顔認識システムSNAPは、サウスカロライナ州の企業データワークス・プラスが550万ドル(約5億9,000万円)で受託。

エンジンとなる顔認識については、NECとコロラド州の企業ランクワン・コンピューティングのテクノロジーを採用しているという。

AIによる顔認識は、白人よりも黒人やアジア系などの有色人種、男性よりも女性で誤認識率が高い傾向にあることが知られている。

この問題で注目を集めたのが、マサチューセッツ工科大学メディアラボの研究者、ジョイ・ブォラムウィニ氏らが2018年2月に発表した研究結果である。

ブォラムウィニ氏らは、マイクロソフト、IBM、さらに中国の顔認識サービスのフェイス++の3つのサービスの認識精度を比較。

3つのサービスの誤認識率は、いずれも男性より女性の方が高く、白い肌より黒い肌の方が高かった。性別と肌の色の組み合わせでは、いずれも誤認識率が最も高かったのは肌の黒い女性。マイクロソフトでは20.8%、フェイス++では34.5%、IBMでは34.7%だった。

なお、アフリカ系米国人やその他のマイノリティーを不当に扱う警察の捜査手法に対する抗議活動が広がったのを受け、IBMは2020年6月8日、顔認識のビジネスからの撤退を表明。2日後の10日にはアマゾンも顔認識の警察への提供を1年間停止と発表。マイクロソフトも翌11日、法整備が行われるまで、警察への顔認識の提供は行わないと発表。

AIによる顔認識への拒絶感が社会にあると言えるが、一方でテクノロジーはあくまでも人間がどう使うかで価値が変わってしまう。テクノロジーを拒絶するのではなく、顔認識に関する法整備が必要なのではないかと思われる。

気になる米国大統領選の予測

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2020年11月3日に行われるアメリカ大統領選挙。

トランプ大統領が再選を果たすのか、民主党が4年ぶりに政権を奪還するのか。また、その結果が投資にどのように影響を与える可能性があるのか気になるところ。

大統領選や米国選挙の今後を予測するうえで大変興味深いウェブサイトを紹介したい。FiveThirtyEightである。
https://fivethirtyeight.com/

このウェブサイトは、2008年3月にネイト・シルバーというアメリカ合衆国の統計学者によって立ち上げられた。

なぜこのサイトが面白いのかというと、2008年合衆国大統領選挙では合衆国50州のうち49州における勝者を正確に予測し、同年の上院選挙では35人の勝者全員を正確に予測。

2012年アメリカ合衆国大統領選挙では全50州とコロンビア特別区における勝者を正確に予測。

2016年アメリカ合衆国大統領選挙の前日には、ヒラリー・クリントン氏が71%の確率で、ドナルド・トランプ氏が29%の確率で大統領になると予測。結果、外してしまっているが、他の主要な予測では、ヒラリー・クリントン氏の当選を85%-99%と予測していた。相対的にはより確率を正確に捉えていたともいえる。

ネイト・シルバーは、2009年4月にはタイム誌が毎年発表する「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれている。

さて、本日6月25日のブルームバーグの報道によると、ニューヨーク・タイムズとシエナ・カレッジが実施し、6月24日に公表された全国世論調査では、民主党候補指名が確定したバイデン前副大統領の支持率は50%と、トランプ大統領の36%を上回っているとのこと。

現在のFiveThirtyEightの集計は、バイデン氏が50%、トランプ大統領が41%なので、FiveThirtyEightのほうがトランプ氏当選の確率を5ポイントほど上に見ている。なお、FiveThirtyEightの数字はよりリアルタイム性があるので、興味深い。

今後も11月の大統領選まで選挙予測のツールとして活用できるのではないかと思い、紹介した。お役に立てば幸いである。

気になるマザーズ市場での約2か月半ぶりの新規上場

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2020年6月24日、東証マザーズ市場にロコガイド<4497>、フィーチャ<4052>、コパ・コーポレーション<7689>の3銘柄が新規上場。

約2カ月半ぶりの新規上場となったこともあり、IPO銘柄が人気。

ロコガイドは公開価格の2.3倍となる4605円で初値を形成。ストップ高比例配分。フィーチャ、コパ・コーポレーションは初日値が付かず、買い気配で終了。

それぞれの会社概要については以下の通り。

ロコガイド<4497>

  • チラシ・買い物情報サービス「トクバイ」の運営
  • 地域のよりみち情報サービス「ロコナビ」の運営

フィーチャ<4052>

  • コンピュータビジョン・ディープラーニング・機械学習の分野に注力
  • 最先端の画像認識アルゴリズムを開発
  • エッジインテリジェンス向けの「軽量」かつ「高性能」な画像認識アルゴリズムの開発

コパ・コーポレーション<7689>

  • 実演販売および商品卸
  • TV通販の出演および商品卸
  • インターネットによる通信販売
  • 実演販売スクール開講および人材派遣(委託)
  • 販売コンサルティングおよび販促物製作

IPO銘柄の価格動向は、新興株市場に対するセンチメントへ強く影響を与える可能性がある。

東証マザーズ銘柄については、連日の年初来高値更新に加え、今後のIPOに伴い、供給が増えていくことも想定され、より慎重な姿勢が必要。

実際、24日はこれまでの人気株で売り優勢となる銘柄が目立った。

気になるオルタナティブデータ

10+

オルタナティブデータとは、政府や企業が公式に発表する統計データや決算データとは異なり、IoT(Internet of Things)機器や衛星画像、SNS(Social Network Service)などから得られる非伝統的なデータのこと。

こういったデータを活用することで公式の統計データが出る前に状況を把握、より有効な投資判断につながる可能性。

オルタナティブデータが活用されるようになった理由は、コンピュータ性能の向上による部分が大きい。人工知能や機械学習の登場により多様なデータを迅速に分析できるようになった。

一方で、日本の資産運用業界では、こうしたオルタナティブデータの活用は十分に進んでいない。その要因として、保守的な投資判断、高いデータ購入費用、データ分析人材の不足などの理由が考えられる。海外の運用会社においても、トップダウンアプローチの色合いが強い運用会社では、オルタナティブデータの活用はそれほど進んでいないといえる。

一般的に、オルタナティブデータはアルファを生み出すことを期待されている。だからと言って入手するための費用が高価かというとそうとも限らないのが興味深い。

KPMGの「日本におけるオルタナティブ・データの活用」というレポートによると、
「既に誰もが資産運用に活用しているデータの方が価値が分かっているために高値で取り引きされていて、まだ活用方法が知られていない情報が無料でも手に入れることができるといったケースもあり得るのです。その情報がデータとして価値を生むということが分かった瞬間から、重要なデータとして高値で取り引きされるようになるということも考えられます。」

そして面白いのが、オルタナティブデータの活用にはデータサイエンティストが必須であること。一方で、投資運用に詳しいデータサイエンティスト自体の数が圧倒的に不足している。腕に自信ありの人には、大変興味深い分野といえる。

以前、国家戦略特別区域法改正とスーパーシティ構想を紹介したが、スーパーシティ構想で集まるデータは公共財ともいえる。

データサイエンティストの素養があれば、スーパーシティ構想によって利用可能となった様々なデータを活用することが可能に。日本の資産運用にとってもオルタナティブデータ活用が大きく広がる可能性もある。

今、オルタナティブデータは、投資にとって「ブルーオーシャン」ともいえるかもしれない。

気になる新型コロナウイルスの感染拡大

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6月22日のCNNによると、新規感染者数の増加は半数以上の州で確認され、そのいくつかは一日の新規感染者数の記録を上回り続けているとこのこと。

米国は、6月21日に27,465件の新規感染数を報告。南部の急激な上昇が気になるところ。南部では、若い人たちが多く陽性に。

また、カリフォルニア州でも、新型コロナウイルス感染に伴う入院患者数が感染拡大後で最多に。先週の土曜日には、3574人が入院。同州は、一日で最も多い4515人の新規感染者数の増加。

2020年1月からホワイトハウス・コロナウイルス・タスクフォースの主要メンバーの一人として活躍しているファウチ博士の見解によると、新規感染者数の記録的増加は、第1波によるものであり、第2波ではないとのこと

米国、欧州、アジアでの新規感染者数の急激な増加は、ロックダウン緩和から再度ロックダウンに向かうのではないかという懸念から投資家のセンチメントは悪化。

今後の市場の動向において、再度ロックダウンされるのではないかという懸念(確率)がどの程度織り込まれるか注意深くモニタリングする必要がある。

気になるEU復興基金

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ロイター通信によると、2020年6月19日、EU首脳はテレビ形式による会議を開催し、欧州委員会が提案した7500億ユーロ(約90兆円)の新型コロナウイルス復興基金案を巡って協議したものの、各国の主張に隔たりが大きく、物別れに終わったとのこと。年末に向けて調整されていくような時間軸か。

1997年に成立した安定成長協定(Stability and Growth Pact=SGP)により、EU 加盟国の財政規律のための枠組みを提供。これがEU加盟国の財政を縛っているともいえる。

SGP では、93 年 11 月発効の EU のマーストリヒト条約(現リスボン条約)に定められた財政赤字の 2 つの基準(単年度の財政赤字がGDP比3%以下、公的債務が同60%以下)を順守することを加盟国に義務付けるとともに、加盟国の財政を監視することが取り決められた。

その後、ギリシャなど一部の加盟国の財政赤字が欧州債務危機を引き起こしたことから、EU は SGP の運用をより厳格化。財政赤字を予防の観点から中期的な財政目標によりフォーカス。債務比率を引き下げるための義務的な要件が定められた。また、違反国に対しては強化された制裁システムが適用されることとなった。制裁システムもすごいが、義務的な要件もなかなかのもの。

各加盟国は長期的な公的財政の持続性を確保するため構造的な財政赤字 の中期目標(medium-term objective;MTO)を国内総生産(GDP)の1%を超えないように設定することが要請される。

構造的な財政赤字が中期目標(MTO)を上回ってしまった場合、なんと当該国は構造的赤字を年平均でGDPの0.5%削減する調整過程に入ることを約束させられる。

万が一にも、当該国がMTOまたはMTO達成に向けた調整過程から大きく外れると、欧州理事会は、れらの乖離を最長で5カ月以内に取り除く方法を勧告することができる。

それでも、加盟国によって効果的な措置が取られなかった場合、欧州理事会は、欧州委員会の勧告に基づき加盟国に対してなんと制裁を課すことができる。

欧州理事会で制裁が決定されると、当該国は GDPの0.2%に相当する有利子の預託金を支払われなければならない。

ここまでは、まだ予防措置。

是正措置もある。

是正措置は、財政赤字の GDP比3%という基準値への違反が明らかになったときに発動。

最初は、予防措置のもとで課された有利子の預託金が無利子の預託金に転換される。さらに欧州理事会の勧告に沿って有効な措置が取られなかった場合にはGDPの0.2%に相当する罰金が課される。制裁は欧州委員会の勧告に基づき欧州理事会が決定する。

その後も加盟国が有効な措置を取らず赤字が拡大した場合は、GDPの0.5%以下の罰金が課される。

ここまで見てみると、経済成長のエンジンである金融政策と財政政策のうち、財政についてはかなり縛りが厳しいことが分かる。このため、以前ご覧いただいたようにGDP対比の政府の借金がどんどんと縮小。欧州が緊縮財政でブレーキを踏んでいる様子につながる。

足元、新型ウイルスの感染が急拡大し、欧州委員会が提案した「一般免責条項」の発動をEU財務相は5月23日、正式に承認。加盟国に新型コロナウイルス対策についての自由裁量を与え、EU規則で定めた政府の借り入れ上限の適用を停止している。

したがって、EUとしては再度の欧州危機を回避するためにも、各国による財政赤字拡大に引き続き一定の歯止めをかけたい。しかし一方で、 新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンで打撃を受けた経済を支えなくてはいけない。

この2つの解決策になりえるのが、「EU復興基金」。7500億ユーロのうち、5000億ユーロは補助金、2500億ユーロは融資。EUが5000億ユーロ分の債券を発行し、市場からお金を調達、被害が大きいイタリアなど南欧に回す。補助金部分は、返済不要。当該債券発行は共同債務となる意味合いもあり、EU復興基金の成立はEU域内の今後の財政出動に影響も大きいと考えられる。提案されているEU復興基金も2021~27年のEUの中期予算に組み込むため、実際にお金が届くのは21年から。

一方で、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデンの4カ国、通称「倹約4カ国(frugal four)」がコンディショナリティ(財政再建や構造改革など)と引き換えに実行する融資形式を対案として提案。

復興基金の行方は欧州経済成長にとって、エンジンの一つの財政政策がどうなっていくのか、成長エンジンとしてのEUの妙味へも影響が大きい。

米国と日本は、財政・金融良政策がフルアクセル状態なので2021年以降、中長期的に株式市場の成長が楽しみである。さて、欧州がどうなるか、引き続き要注目。