エルピクセルは未上場企業。2014年3月4日設立。東京大学のライフサイエンス領域の画像解析に強みを持つ研究室が2014年3月スピンアウトして出来た会社。
大手町に構えるオフィスには、ライフサイエンスやAIの知見を持つ多様な国籍の人材が集う。主力サービスは、画像診断サービスのEIRL(エイル)。AI(ディープ・ラーニング)を活用し、画像をはじめとする医療診断に必要なあらゆる情報を解析することで、より速く、効率的で正確な診断を行う、次世代医療診断支援技術の提供を目指す。「Microsoft Innovation Award 2016」、「2017 Red Herring Global Top 100」、「ジャパン・ヘルスケア ビジネスコンテスト2017 優秀賞」、「J-Startup企業」等、これまでに受賞。
そのエルピクセルが本日、2020年6月10日、同社の元取締役(志村宏明容疑者)が業務上横領の容疑で警視庁に逮捕されたと発表。被害額は約33億5000万円。容疑者は主にFX取引に使ったとしている。
設立以来、エルピクセルは約37億円の資金を調達。
- 2016年10月、エルピクセルは、株式会社ジャフコが運営管理する投資事業組合、Mistletoe株式会社、東レエンジニアリング株式会社、個人投資家を引受先とした第三者割当増資により、総額7億円の資金調達を実施。
- 2018年10月、エルピクセルは、オリンパス、CYBERDYNE、富士フイルムなどを引受とする第三者割当増資により、総額で約30億円を調達したことを明らかに。
今回、その大半が被害にあった可能性。事件当時、志村容疑者は、経理担当者で会社の資金を1人で管理していたとのこと。同容疑者は、2017年4月から19年1月まで、会社資金を自身の預金口座へ複数回にわたって送金。
送金した総額は約33億5000万円。内、約5億9500万円は発覚前に会社口座へ返還。
横領行為の発覚を免れるため、会社の預金通帳写しを改ざんしていたとも。エルピクセルの調査の結果、志村容疑者から任意提出を受けた個通帳の写しやFX取引の取引残高報告書から、着服された会社資金は主にFX取引に消費されたことが判明。
再発防止に向けて、同社は内部監査室の設置や常勤監査役の1人増員などを行った。また、これまでの調達額に加えて、CYBERDYNEなどから約10億円の資金調達を新たに実施。既存事業を継続していく考えを示した。
いくつかの疑問がわく。
①そもそも元取締役(志村容疑者)に十分な経済的なインセンティブは付与されていたのか(犯行の動機)、
②杜撰な内部管理体制に関して出資者からのアドバイスはなかったのか、
③今後、取締役や監査役の任務懈怠による損害賠償責任(総株主の同意による責任の全部免除、もしくはその他の方法による責任の一部免除)をどうするのか、等より詳細な調査/アップデートが待たれる。
③については、総株主の同意による責任の全部免除を除き、会社法では株主総会の決議によっても免除をすることができない金額が定められており、当該金額を「最低責任限度額」という。
取締役の区分に応じ以下のとおり。
- 代表取締役:(1年当たりの報酬等の額)×6
- 業務執行取締役等:(1年当たりの報酬等の額)×4
- 上記以外の取締役(監査役を含む):(1年当たりの報酬等の額)×2
仮に、代表取締役の1年あたりの報酬等の額が1500万円とすると、9000万円が最低責任限度額となる。一部免除では、最低責任限度額以上の賠償責任となる。
エルピクセルはベンチャー企業であるので、創業者の能力とそれに対するインセンティブは非常に重要。勝手な推測では、株の保有割合の調整と引き換えに、総株主の同意による責任の全部免除という流れか。
今後の展開が気になる。
これまでの受賞歴等からも分かる通り、エルピクセルは有望なベンチャー企業であったため、尚更のこと、ベンチャー企業の支援体制を含め、今回の不祥事を防げなかったことが悔やまれる。