気になるハゲタカ

6月 19, 2020 気になる
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日本は3月決算の企業が多く、多くの会社が「定時株主総会は事業年度の翌日から3ヶ月以内に開催する」と定款に記載。このため、定時株主総会の開催時期は6月に集中。今年も株主総会シーズンに突入。

大和総研のレポートによると、株主総会で株主提案を受けた企業が、2019年は65社とそれまでで最多。そして、ロイター社の本日の記事によると今年の6月総会で株主提案を受けた企業数は6月19日時点で54社。過去最多となった前年実績に並び、新型コロナの影響による勢いの衰えはみえないとのこと。株主提案増加の背景にはアクティビストがいる。

アクティビストとは、「株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家」のこと。いわゆる「物言う株主」。経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等をおこなうことがある。最近では株式の保有割合が低くても、投資先企業に積極的に提言をおこなうケースが増えている模様

アクティビストはハゲタカなのか。

有名なのは、13年前のスティール・パートナーズによるブルドックソース事件。
2007年5月16日ブルドックソースに対して全株取得を目標にTOBを行うと発表。
5月18日にスティール側が5月14日以前1ヶ月平均の株価に約20%のプレミアムを付けた価額で全株取得に向けたTOBを開始。

2007年7月9日、東京高裁はブルドック側の対抗策を正当なものとして認め、逆にスティール・パートナーズについてはなんと、転売による利益確保を目的として株を購入する「濫用的買収者」であると認定し抗告を棄却。判決は「企業価値についてもっぱら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方は限界があり採用できない」とも述べている。

最高裁判所に特別抗告・許可抗告したが、いずれも棄却され、ブルドックソースへのTOBも失敗。

その後、日本の数多くの上場企業から、スティール・パートナーズは事実上、総会屋並の警戒対象として認識されているともいわれる。他人事ながら泣ける。

現在、代表的なアクティビストに、世界最大手のエリオット・マネジメント(米国)やサード・ポイント(米国)、オアシス・マネジメント(香港)、旧村上ファンドとその末裔(日本)などが有名。

アクティビストは、最近では一般に、マイノリティ出資で成熟段階にある企業を狙う。利益率が低く(例えば、ROEが8%未満でPBR1倍未満)、経営のガバナンスが脆弱である一方、安定的な中核事業があるそんな企業。投資先候補を絞り、株価下落のタイミングで株の取得。事業再編や株主還元を迫ったりなどして株価が上昇後、最終的に売り抜けるアクティビスト。すごく合理的。

本日のロイター社の記事によると、「株主総会の運営を支援する三菱UFJ信託銀行によると、今年の6月総会で株主提案を受けた企業数は19日時点で54社と、過去最多となった前年実績に並び、新型コロナの影響による勢いの衰えはみえない。しかし提案内容を精査すると、増配や自社株買いなど株主還元を求める提案から、取締役選任など広範囲なガバナンス(企業統治)改善を求める提案にシフトしている実態が浮かび上がる。新型コロナの影響で多くの企業の売り上げが急減するなか、事業継続のために手元現金の重要性が増しているからだ。」「剰余金処分に関する株主提案を受けた企業は計9社、うちアクティビストから剰余金処分の提案があったのは3社で、昨年6月総会の全体で17社、うちアクティビストからの提案が6社だったのと比べて半減している。」とのこと。

エージェンシー問題と言われる永遠の問題がある。例えば、株主と経営陣の間の利益相反。プリンシパル(例えば株主)の委託を受けたエージェント(取締役)が、プリンシパル(株主)の利益のために行動しないことによる取引(企業経営)の失敗のこと。

個人的には、企業統治に関する上記エージェンシー問題(特に遅々として経営効率を改善しない社内取締役)に対する厳しい解決策と一つとしてアクティビストの提案も十分に理解できる。

投稿者: CFA

米国証券アナリスト、日本証券アナリスト検定会員。また、経営学修士号(MBA)保持者ならびにベータ・ガンマ・シグマ所属。 仕事でも色々なことを考えるので、投資にあたって面白いと思った情報を継続的にご紹介します。皆様のご投資の参考になればと思い、Finepresa(フィネプレサ)を立ち上げました。 よろしくお願い致します。