未来への投資にあたって興味深い分野の一つに自動運転業界があります。
2020年4月1日、自動車分野で最も重要な2つの法律が改正されました。公道での交通ルールを定めた道路交通法と、公道を走行する車両が満たさなくてはならない条件を定めた道路運送車両法です。特に興味深いのが、公道上で「レベル3」の自動運転が解禁になりました。実質的には世界を引っ張る形での解禁です。非常にワクワクします。
まず、業界全体をざっくりを見るのにあたり、株式会社ストロボ/自動運転ラボが作成した自動運転業界マップが参考になります。
自動運転にはレベル分けがあり、以下の国交省のスライドが参考になります。自動運転のレベルは1から5まであり、監視の主体がレベル3以上で人からシステムに代わります。レベル3では、基本システムがすべての運転タスクを実施し、システムの介入要求に対してドライバーが適切に対応することが必要となります。
2020年はそんなレベル3に対応した新型車の登場も噂されています。
そして、その実現に欠かせないのが高精度マップです。今回は、インフラ系の中でも3D地図・位置情報についてみていきたいと思います。
自動運転業界マップで紹介されているのは、以下の8社です。
- Here Technologies – オランダのアムステルダムに本社。地図データおよび地図関連サービスを提供するベンチャー企業。ドイツの自動車メーカー3社のAudi、BMW、Daimlerが出資。パイオニア、三菱電機、富士通の日本企業も提携。
- TomTom – オランダを拠点として地図サービスなどを運営。アップルの「マップ」アプリに地図データが採用されていた企業。トヨタ自動車のグループ会社で自動運転などを研究するトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)とデンソーとの協業。
- ゼンリン – 地図情報の国内最大手。 主要株主はゼンリンの創業家の資産管理会社サンワ、トヨタ自動車、NTT。ゼンリンにとって、大型の資本業務提携は、1997年にトヨタと、2020年にNTTと。
- インクリメントP – パイオニア株式会社が全額出資。ボッシュとインクリメントP、自動運転用高精度マップについての協業に合意。
- ダイナミックマップ基盤株式会社(DMP) – ダイナミックマップ基盤(DMP)は、高精度3次元地図データを提供する会社。2017年6月には産業革新機構(現INCJ)からの出資を受け、事業会社に移行。出資企業は、産業革新機構、三菱電機、ゼンリン、パスコ、アイサンテクノロジー、インクリメントP、トヨタマップマスターなど。10社の大手日系OEMsからの要求を協調領域として一つの仕様に。トヨタ自動車、ホンダ、日産、三菱自動車など。
- アイサンテクノロジー – 測量、土木ソフト開発販売がメイン。移動式3次元計測システムに注力。主要株主は、三菱電機株式会社、KDDI株式会社など。
- ティアフォー – 世界初のオープンソースの自動運転OS「Autoware」の開発を主導。様々な組織、個人が自動運転技術の発展に貢献できるエコシステムの構築を目指す。ティアフォーとアイサンテクノロジーは、オープンソースの自動運転OS「Autoware」と高精度3次元地図を利用して一般道での実証実験を積み重ね。
- NavInfo – 中国のデジタル地図サービス企業。中国における地図情報は安全保障上の理由により国家機密扱い。地図作製は国から資格を与えられた事業者のみ。地図作製の資格を持つNavInfo(ナビインフォ/四維図新)やAutoNavi(オートナビ/高徳軟件)などが海外自動車メーカーなどと協業。バイドゥ(中国版の検索エンジン)とNavInfo、AutoNaviは、ドイツの自動車部品大手ボッシュと自動運転向けの高精度地図の共同開発に向け提携。
- AutoNavi – 上記参照。
そして、もちろんGoogle Mapsがあります。
自治体や国などの公的機関が測量したデータを基にして、人手を使ってより細部の情報を調べる企業を地図調整企業といいます。日本でデジタル地図データを扱うのは、最大手のゼンリン、パイオニア子会社のインクリメントP、昭文社、トヨタグループのトヨタマップスターの4社のみです。世界でもオランダのテレアトラス、米国のナブテックというプレイヤーの少ない業界となっています。そして、高精度3次元地図データを提供するダイナミックマップ基盤は、ゼンリン、インクリメントP、トヨタマップスターなどから出資を受けています。つまり、ダイナミックマップ基盤は、日本の高精度3次元地図データの大元になるのではないかと推測されます。
一方で、グーグルなどのプラットフォーマーは、従来はこうした地図調整企業から地図データを買って使用してきました。しかしながら、2008年にグーグル社内で始まった「グラウンド・トゥルースプロジェクト」によって、今、業界構造がほぼ変わりつつあります。グーグルが地図の内製化を始めたのです。グーグルストリートビューやグーグルアースなどの画像データから地図を自動生成しています。そして、2019年3月25日には、日本のグーグルマップからゼンリンの文字が消えました。
とはいえ、地図に必要な施設名称などの地点データは引き続きゼンリンと、(新たに採用されたと噂のある)インクリメントPのものを使っていると噂されていますが、これも時間の問題と思われます。グーグルは自社の「ローカルガイド」などを活用し、地点施設の情報をユーザーに投稿してもらうことで、地点データも自社で賄うことができるようになるではと言われています。また、内製化された地図の導入に伴う不具合の修正や地図情報の更新も、ユーザーからの通報を自動で反映するシステムで迅速に行われている状況です。
そして、興味深いのは、地図をベースにした位置情報やナビゲーションなどのサービスは、今後の自動運転や移動サービス(Mobility as as Service, “Maas”)の根幹になるだろうというのが各社共通の認識で、戦略上これをグーグルに握られたくない企業が増えているという状況です。
それでは、日本の3次元高精度地図の市場において、今後、Google vs. ゼンリンですが、どうなるでしょうか。
正確には、Google vs. ダイナミックマップ基盤 となるかもしれません。ちなみに、ダイナミックマップ基盤の主要株主は、INCJです。INCJの全株式は株式会社産業革新投資機構が保有されています。
産業競争力強化法の改正法の施行に伴い、産業革新機構は株式会社産業革新投資機構として、新たな活動を開始しています。したがって、INCJは実質官民ファンドと言えます。
業務内容は、既投資先のValue up活動や追加投資、マイルストーン投資、EXITに向けた活動を主要業務として、国から一定の関与を受けながら、2025年3月末まで、活動をするというものです。3次元高精度地図の「協調領域」(皆が利益を得られる部分)を官がしっかりと支援することで、日本の3次元高精度地図業界を育てていきたい意向を感じます。
INCJでは以下のように投資先であるダイナミックマップ基盤を説明しています。国内自動車メーカー10社の名前に加えて、ゼンリン、インクリメントP、マップマスターの名前も出資者として挙がっています。
したがって、ダイナミックマップ基盤が3次元高精度地図の実用化のデファクト・スタンダードになった場合、ゼンリン<9474>、アイサンテクノロジー<4667>、パイオニア(インクリメントPの親会社、上場廃止)、パスコ<9232>、トヨタ<7203>をはじめとする国内自動車メーカー、三菱電機<6503>などが恩恵を受ける可能性があります。
では、このオールニッポン3次元高精度地図連合に対してGoogle勢はどうなっているのか、明日引き続きご紹介します。