気になる自動運転業界(ウェイモ/テスラ)

7月 17, 2020 気になる
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昨日、地図をベースにした位置情報やナビゲーションなどのサービスは、今後の自動運転や移動サービス(Mobility as as Service, “Maas”)の根幹になるだろうというのが自動運転に取り組む各社共通の認識であることや、日本ではダイナミックマップ基盤において、オールジャパンの知見を集約していることをご紹介しました。

今日は、自動運転技術の台風の目となっている米Alphabet社(Googleの運営会社)傘下の自動運転事業会社であるウェイモ(Waymo)についてご紹介したいと思います。

まず、ウェイモの歴史を簡単に振り返ります。米グーグルは2009年に自動運転車の開発に着手しました。当該開発部門は、無人機(ドローン)による配送などの研究を手掛ける研究部門Xに置かれていました。米グーグルの持ち株会社アルファベットは2016年12月、自動運転車の開発部門を分社化すると発表しました。新会社の名称をウェイモとし、アルファベット傘下で独立して運営され、実用化に向けて開発をさらに加速していく体制としました。その際、ウェイモの最高経営責任者に就任したジョン・クラフチック氏は「人やモノの移動を安全・簡単にすることが使命だ」と述べています。

米調査会社のナビガント・リサーチが2020年3月、「2020自動運転車リーダーボード」を発表しています。大手自動運転システム開発会社を対象に市場戦略や生産戦略、マーケティング、製品の機能や信頼性など10項目にわたる評価を行い、ランク付けしました。その結果、開発・実用化共に先行しているWaymoが前年同様1位となっています。

早くから自動運転開発に本格着手し、積極的に公道実証を進めてきた同社は、2018年12月に自動運転レベル4相当の車両でタクシーの商用サービスを開始するなど、実用化の面でも他社を先行している状況です。また、2019年1月には、提携する欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズや英ジャガー・ランドローバーなど自動車メーカーから購入した車両を改造して自動運転車に仕立て上げる工場の建設を発表しています。同社が自社開発する自動運転ソフトやセンサーを組み込む作業がメインで、改造によって自動運転レベル4の車両を生産していく見込みです。作業はカナダの自動車部品大手マグナ社と協力して行っています。

Googleのロボットカー(ウェイモの自動運転車)には、約15万ドルに相当する機器を搭載し、この内7万ドルに相当するLIDAR(レーザーレーダー)が搭載されています。上部に装備された距離計は64個のビームレーザーを備えていて、この装置からレーザービームを照射し、車両周辺の詳細な3Dマップを生成します。生成された3Dマップをセルフドライビングカーが読み取り、Googleの高解像度マップと照合し、これを応用して自動運転車が自動で運転制御する仕組みとなっています。

ウェイモは、独自に構築した3次元地図を利用しています。ウェイモはフィアット・クライスラー・オートモービルズや本田技研工業と提携をしていますが、現時点では、両社がWaymo製の3次元地図を利用するかどうかは不明です。ただ、Googleマップのように戦略として無料公開という可能性も考えられ、ゲームのルールが変わる可能性があります。その動向には注意が必要です。

投資にあたって興味深いのは、UBSは、2019年時点で自動運転のトップを走るWaymoの売上が2030年には1140億ドル(約12兆円)になると試算しました。
2018年のGoogleの売上が1,368億ドル(約15兆円)でしたので、ウェイモはあと10年で2018年時のGoogleに迫る巨大企業になりという予想です。

その後、2020年3月にウェイモは22.5億ドル(約2400億円)の資金を親会社のアルファベットからではなく、外部の投資家から受け入れました。この時のバリュエーションによると、ウェイモ全体の企業価値は300億ドル(約3兆2000億円)と評価されたことになります。

ここで興味深いのは、その当時、FTが最高経営責任者のジョン・クラフチック氏にインタビューをした際に、会社の今後の方向性を再検討していると言及しています。

「私たちの役割はドライバーにフォーカスを当て、それ以外のカスタマーエクスペリエンスなどは業界の他社に譲るのもあり得るかもしれない。」

これは、ロボットタクシーの運営に直接従事するのではなく、他社に自動運転技術を提供するサプライヤーに転換することを示唆している可能性があります。前面に自動車会社があって、ウェイモは後ろにいるようなイメージです。

今後、自動運転技術のセクターで巨額の重複投資を圧縮するため、企業合併が進むとみられる中での、興味深い発言と言えます。そうなると、まさに 日本のダイナミックマップ基盤 対 米国のウェイモ の可能性があるかもしれません。

なお、残念ながら、ウェイモへの投資はプライベート市場の投資機会で直接投資することはできません。

公開市場での投資対象としては、テスラ<TSLA>が投資検討対象となるかもしれません。ただし、自動運転技術ランキングなどでは上位にはまだ上がってきません。

テスラの強みは、創業以来、納車した電気自動車は累計78万台に達し、その大半には自動運転機能が出荷時から組み込まれていることです。この機能は、オーナーが自動運転用ソフトウェアの使用料を支払うことで利用可能になる仕組みになっていて、テスラは自動運転技術の収益化ができています。

テスラの自動運転による走行距離は、2016年5月の時点では約1億マイル(約1億6000万キロメートル)だった累計走行距離が、2019年10月時点では推計18億8000万マイル(約30億2557万キロ)に達した模様です。自動運転のアルゴリズムは機械学習に基づいているため、走行距離の持つ意味は大きくなります。機械学習に使えるトレーニング・データが多いほど、学習結果が最適化される傾向にあります。

技術的に面白いのは、テスラの自動運転用ハードウェアは、レーダー、超音波、パッシブカメラベースの画像処理などの既存技術に基づいていて、レーザー光を用いるライダー(LIDAR)技術を用いていないことです。このため、システムを安価に構築でき、テスラが出荷するすべての車両に標準装備として組み込むことができるのがポイントです。

ただ、テスラは2019年、米証券取引委員会(SEC)に提出した報告書で、前年の報告書には記載のあった「さらに、当社は完全自動運転技術の開発において大きな前進を追求し続けます」という部分を削除しています。少し気になります。

以上、ご参考になれば幸いです。

投稿者: CFA

米国証券アナリスト、日本証券アナリスト検定会員。また、経営学修士号(MBA)保持者ならびにベータ・ガンマ・シグマ所属。 仕事でも色々なことを考えるので、投資にあたって面白いと思った情報を継続的にご紹介します。皆様のご投資の参考になればと思い、Finepresa(フィネプレサ)を立ち上げました。 よろしくお願い致します。