気になるヘッジファンドの年初来パフォーマンス (2020.09.10)
HFR(米国最大手のヘッジファンド調査会社)によるとヘッジファンド戦略は年初来の8か月間で平均でたったの+2%のパフォーマンスということでした。これは、株価指数や債券インデックスのパフォーマンスから大きく後れを取っています。残高加重平均では、なんと-4.1%のマイナスです。
別のEurekahedgeの調査では、成績は若干よく見えますが、同じ8か月間で+3.7%で、残高加重平均で-0.7%でした。なんとも厳しいパフォーマンスです。
もちろん、Saba CapitalやPershing Squareなどの非常に良い成績を上げているヘッジファンドはあります。上記の数字はあくまでも平均的なヘッジファンドの年初来のパフォーマンスです。
その中でも特にコンピューター主導で運用をしているヘッジファンドは苦戦が目立ちます。
例えば、数学的・統計的分析から導かれた定量モデルを用いた運用を得意としているルネッサンス・テクノロジー社ですが、ブルームバーグの報道によると、Renaissance Institutional Diversified Alpha戦略とRenaissance Institutional Diversified Global Equitiesファンドはそれぞれ7月末までで-20%と-18.6%の成績ということです。
ご参考までですが、ルネッサンス・テクノロジー社は、1982年、数々の賞を受賞した数学者で冷戦時代の暗号解読者だったジェームズ・シモンズによって創設されました。数学者、統計学者、純粋・実験物理学者、天文学者、コンピュータ科学者を束ねたそんな運用をしています。ただ、今回は①マクロ経済に非常に大きな影響を与える外的要因と②力強い緩和的な金融政策③拡張的な財政政策の前で、モデルがうまく機能しなかったと推測されます。
他にも、米国のAQRキャピタルマネジメント社も苦戦をしています。AQRは、ポートフォリオ構築のために研究ベースの「体系的で一貫したアプローチ」を採用し、バリュー投資、モメンタム投資、ディフェンシブ投資、キャリー投資を一緒に用いることで、伝統的な資産クラスとの相関性が低い戦略を提供しています。
分散投資に基づいてポートフォリオをうまく構築することで、そのような運用が可能であると言いうことを学術的に示し、機関投資家からの受託資産残高が非常に増えたヘッジファンドです。2018年11月に東京に拠点を開設しましたが、ただ、近年パフォーマンスが振るわず、すでに東京の拠点は閉鎖したのではないかと言われています。本国ではまだまだ元気でし、2020年3月末時点で残高は約16兆円あります。
そのAQRですが、本来であれば、株式市場の動向にあまり振らされない運用のはずですが、年初来で-15%近くのパフォーマンスとのことです。非常に優秀な数学者を集めた運用が、2020年の相場で大きく苦戦していることはとても印象的です。
数理モデルのみに頼らず、多面的な分析に基づく資産運用が大切であることを思い出させてくれます。