気になる米国の個人消費

気になる米国の個人消費

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米商務省が26日発表した5月の個人消費支出(季節調整済み)は前月比8.2%増と、統計を開始した1959年以来の大幅な伸び。一方、所得は減少し、貯蓄の取り崩しとなった。7月から数百万人が失業支援を受けられなくなるため所得が一段と減り、残念ながら個人消費の勢いは続かないとみられる。

個人消費は米経済の3分の2以上を占める。個人消費(国内消費)とGDPのこれまでの四半期ごとの動き(それぞれ年率化)については以下のグラフを参照。ほとんど同じように動いていることが見える。

4月は12.6%減と、過去最大の落ち込みを記録した。5月の個人消費の増加は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために3月中旬以降事業を停止していた企業が再開したことを反映。

これまで自動車や娯楽用品が好調だったほか、ヘルスケアと外食、宿泊も伸びた。このところの米経済指標では、住宅着工、工業生産、製造業受注などに関するものが堅調。新型ウイルス感染拡大抑制策による落ち込みは底を打った可能性。ただ、足元、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州など人口が多い州を含む一部地域で感染が再拡大。始まったばかりの回復には、新型コロナウイルス感染拡大の第2波のリスクがある。

個人消費支出は前月比8.2%増であったものの、個人所得は4.2%減。これは2013年1月以来の大幅なマイナス。4月は10.8%増と過去最大の伸びを記録していた。この大きな動きは、政府による新型コロナ関連の支給が背景。
4月は新型コロナの打撃を和らげるために政府が何百万人もの人を対象に1200ドルを支給したほか、失業保険手当を拡大したことが所得を押し上げた。現金支給は政権が導入した約3兆ドルに上る過去最大の財政政策の一環。一方、5月の所得減少は、政府による新型コロナ関連の支給が減ったことを反映。政府は7月31日に失業保険手当てを週間で600ドル追加する対策を停止予定。エコノミストは約2600万人が全く収入の状況に追い込まれるとの見方。6月第1週時点で、労働力の5分の1に相当する約3060万人が失業保険を受給。政府から家計への資金の移転は5月に1兆1000億ドル。4月は3兆ドルだった。

家計は5月に貯蓄を切り崩した。5月の貯蓄率は23.2%と、過去最高水準を付けた4月の32.2%から低下。エコノミストは、新型ウイルス感染拡大を巡る先行き不透明感が高い中、消費者の間で貯蓄性向が強まる可能性があるとの見方を示している。

以上をまとめると、個人所得は今後、新型コロナ関連の支給が減ることにより減少する可能性が高い。また、貯蓄率も新型コロナウイルス感染拡大をめぐる先行き不透明感から高まる可能性。これらの結果として、個人消費は弱含む可能性がある。個人消費は米経済の3分の2以上を占める。このため、米国のGDPも落ち込む可能性がある。この流れを弱めるためには、追加的な政府による景気刺激が必要と思われる。

米経済は第2四半期に最大46%のマイナス成長に陥り、落ち込みは1930年代の大恐慌以降で最大になる見通し。第1四半期の米経済成長率はマイナス5%と、2007-09年の大不況以降で最大の落ち込みであった。

株式のバリュエーションと実体経済の回復プロセスとの乖離について、今後の相場では注意してみていく必要がある

気になる確定拠出年金での運用のエンジン

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個人型確定拠出年金の運用をされている方もいると思うので、国内株のアロケーションで候補となりうるファンドのうち、2020年5月末時点で5年積立リターンTOP3をご紹介する。

ランキングの出所はiDeCoナビ(運営:特定非営利活動法人 確定拠出年金教育協会)。毎月一定額の積み立てを想定。以下の数字は、5年積立リターン。

1位 DCダイワ中小型株ファンド 33.79%
2位 MHAM日本成長株ファンド<DC年金> 30.98%
3位 スパークス・新・国際優良日本株ファンド(厳選投資) 25.32%

ここで、第1位のDCダイワ中小型株ファンドと、第2位のMHAM日本成長株ファンド<DC年金>について、2006年9月からの非常に長い期間の月次のパフォーマンスと累積パフォーマンスをグラフにしてみた。

右側の赤色の第2軸が累積リターンを表しているが、上下のグラフでy軸の範囲が違うことにご留意いただきたい。

しっかりとしたファンドを選ぶことで資産運用のエンジンとできることが分かる。中小型株や成長株だと、リーマンショック時の下落とその後の民主党政権での低迷に加え、2012年安倍政権になってからのアベノミクスの恩恵をしっかりと受けていることが確認できる。

成長のエンジンの選択とタイミングが重要である。

気になるAIと誤認逮捕

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6月25日のロイター社の記事によると、人工知能(AI)を使った顔認識技術を手掛ける米企業ランクワン・コンピューティングは24日、米国内で初めて報告された同技術の誤判定による不当逮捕事件で、同社のソフトウエアが使われていたのを受け、悪用を防ぐための対策を取ると表明。

発端は2018年10月に起きた窃盗事件。

ブランドショップとして知られるミシガン州デトロイト中心部の高級店「シャイノラ」で、時計5点、計3,800ドル(約40万円)分が万引きされた。

監視カメラに写っていたのは、赤い野球帽をかぶった大柄で黒い服をきた黒人男性だった。

地元のデトロイト市警察は事件発生から5カ月後の2019年3月、この監視カメラ映像の鑑定を、ミシガン州警察に依頼。州警察では、4900万枚の顔画像で構築した顔認識システムSNAPを使って、映像の人物の鑑定を行った。

その結果、SNAPが映像の人物と合致する顔画像の一つとして判定したのが、ウィリアムズ氏の免許証の顔写真であった。

さらに4カ月後の2019年7月、この判定をもとに、ウィリアムズ氏の顔写真を含む6人の面通し用顔写真を作成。シャイノラの警備員に見せたところ、警備員がウィリアムズ氏を特定。

その半年後、事件発生から数えて1年3カ月後となる2020年1月9日、デトロイト市警がウィリアムズ氏を逮捕。

ウィリアムズ氏が「黒人が全員同じに見えてないといいのですが。」と発言すると、警察は困惑。画像の人間とウィリアムズ氏が一致しないと考え、「コンピューターが間違えたんだな。」と言ったという。逮捕から30時間後の1月10日夜、ウィリアムズ氏は釈放。

デトロイトの警察はウィリアムズ氏の誤逮捕についてコメントを控えたが、現在は顔認識技術の使用を凶悪犯罪と家宅侵入に限定していた。

ランクワンのブレンダン・クレアCEOは「当社の倫理規定に違反する当社ソフトの使用に対して使用許可を取り消す法的手段を確立し、悪用を阻止するためソフトに搭載する追加安全策について技術的な検討も行う」と表明した。 

ニューヨーク・タイムズによれば、ミシガン州警察の顔認識システムSNAPは、サウスカロライナ州の企業データワークス・プラスが550万ドル(約5億9,000万円)で受託。

エンジンとなる顔認識については、NECとコロラド州の企業ランクワン・コンピューティングのテクノロジーを採用しているという。

AIによる顔認識は、白人よりも黒人やアジア系などの有色人種、男性よりも女性で誤認識率が高い傾向にあることが知られている。

この問題で注目を集めたのが、マサチューセッツ工科大学メディアラボの研究者、ジョイ・ブォラムウィニ氏らが2018年2月に発表した研究結果である。

ブォラムウィニ氏らは、マイクロソフト、IBM、さらに中国の顔認識サービスのフェイス++の3つのサービスの認識精度を比較。

3つのサービスの誤認識率は、いずれも男性より女性の方が高く、白い肌より黒い肌の方が高かった。性別と肌の色の組み合わせでは、いずれも誤認識率が最も高かったのは肌の黒い女性。マイクロソフトでは20.8%、フェイス++では34.5%、IBMでは34.7%だった。

なお、アフリカ系米国人やその他のマイノリティーを不当に扱う警察の捜査手法に対する抗議活動が広がったのを受け、IBMは2020年6月8日、顔認識のビジネスからの撤退を表明。2日後の10日にはアマゾンも顔認識の警察への提供を1年間停止と発表。マイクロソフトも翌11日、法整備が行われるまで、警察への顔認識の提供は行わないと発表。

AIによる顔認識への拒絶感が社会にあると言えるが、一方でテクノロジーはあくまでも人間がどう使うかで価値が変わってしまう。テクノロジーを拒絶するのではなく、顔認識に関する法整備が必要なのではないかと思われる。

気になる米国大統領選の予測

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2020年11月3日に行われるアメリカ大統領選挙。

トランプ大統領が再選を果たすのか、民主党が4年ぶりに政権を奪還するのか。また、その結果が投資にどのように影響を与える可能性があるのか気になるところ。

大統領選や米国選挙の今後を予測するうえで大変興味深いウェブサイトを紹介したい。FiveThirtyEightである。
https://fivethirtyeight.com/

このウェブサイトは、2008年3月にネイト・シルバーというアメリカ合衆国の統計学者によって立ち上げられた。

なぜこのサイトが面白いのかというと、2008年合衆国大統領選挙では合衆国50州のうち49州における勝者を正確に予測し、同年の上院選挙では35人の勝者全員を正確に予測。

2012年アメリカ合衆国大統領選挙では全50州とコロンビア特別区における勝者を正確に予測。

2016年アメリカ合衆国大統領選挙の前日には、ヒラリー・クリントン氏が71%の確率で、ドナルド・トランプ氏が29%の確率で大統領になると予測。結果、外してしまっているが、他の主要な予測では、ヒラリー・クリントン氏の当選を85%-99%と予測していた。相対的にはより確率を正確に捉えていたともいえる。

ネイト・シルバーは、2009年4月にはタイム誌が毎年発表する「世界で最も影響力のある100人」の一人に選ばれている。

さて、本日6月25日のブルームバーグの報道によると、ニューヨーク・タイムズとシエナ・カレッジが実施し、6月24日に公表された全国世論調査では、民主党候補指名が確定したバイデン前副大統領の支持率は50%と、トランプ大統領の36%を上回っているとのこと。

現在のFiveThirtyEightの集計は、バイデン氏が50%、トランプ大統領が41%なので、FiveThirtyEightのほうがトランプ氏当選の確率を5ポイントほど上に見ている。なお、FiveThirtyEightの数字はよりリアルタイム性があるので、興味深い。

今後も11月の大統領選まで選挙予測のツールとして活用できるのではないかと思い、紹介した。お役に立てば幸いである。

気になるマザーズ市場での約2か月半ぶりの新規上場

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2020年6月24日、東証マザーズ市場にロコガイド<4497>、フィーチャ<4052>、コパ・コーポレーション<7689>の3銘柄が新規上場。

約2カ月半ぶりの新規上場となったこともあり、IPO銘柄が人気。

ロコガイドは公開価格の2.3倍となる4605円で初値を形成。ストップ高比例配分。フィーチャ、コパ・コーポレーションは初日値が付かず、買い気配で終了。

それぞれの会社概要については以下の通り。

ロコガイド<4497>

  • チラシ・買い物情報サービス「トクバイ」の運営
  • 地域のよりみち情報サービス「ロコナビ」の運営

フィーチャ<4052>

  • コンピュータビジョン・ディープラーニング・機械学習の分野に注力
  • 最先端の画像認識アルゴリズムを開発
  • エッジインテリジェンス向けの「軽量」かつ「高性能」な画像認識アルゴリズムの開発

コパ・コーポレーション<7689>

  • 実演販売および商品卸
  • TV通販の出演および商品卸
  • インターネットによる通信販売
  • 実演販売スクール開講および人材派遣(委託)
  • 販売コンサルティングおよび販促物製作

IPO銘柄の価格動向は、新興株市場に対するセンチメントへ強く影響を与える可能性がある。

東証マザーズ銘柄については、連日の年初来高値更新に加え、今後のIPOに伴い、供給が増えていくことも想定され、より慎重な姿勢が必要。

実際、24日はこれまでの人気株で売り優勢となる銘柄が目立った。

気になるオルタナティブデータ

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オルタナティブデータとは、政府や企業が公式に発表する統計データや決算データとは異なり、IoT(Internet of Things)機器や衛星画像、SNS(Social Network Service)などから得られる非伝統的なデータのこと。

こういったデータを活用することで公式の統計データが出る前に状況を把握、より有効な投資判断につながる可能性。

オルタナティブデータが活用されるようになった理由は、コンピュータ性能の向上による部分が大きい。人工知能や機械学習の登場により多様なデータを迅速に分析できるようになった。

一方で、日本の資産運用業界では、こうしたオルタナティブデータの活用は十分に進んでいない。その要因として、保守的な投資判断、高いデータ購入費用、データ分析人材の不足などの理由が考えられる。海外の運用会社においても、トップダウンアプローチの色合いが強い運用会社では、オルタナティブデータの活用はそれほど進んでいないといえる。

一般的に、オルタナティブデータはアルファを生み出すことを期待されている。だからと言って入手するための費用が高価かというとそうとも限らないのが興味深い。

KPMGの「日本におけるオルタナティブ・データの活用」というレポートによると、
「既に誰もが資産運用に活用しているデータの方が価値が分かっているために高値で取り引きされていて、まだ活用方法が知られていない情報が無料でも手に入れることができるといったケースもあり得るのです。その情報がデータとして価値を生むということが分かった瞬間から、重要なデータとして高値で取り引きされるようになるということも考えられます。」

そして面白いのが、オルタナティブデータの活用にはデータサイエンティストが必須であること。一方で、投資運用に詳しいデータサイエンティスト自体の数が圧倒的に不足している。腕に自信ありの人には、大変興味深い分野といえる。

以前、国家戦略特別区域法改正とスーパーシティ構想を紹介したが、スーパーシティ構想で集まるデータは公共財ともいえる。

データサイエンティストの素養があれば、スーパーシティ構想によって利用可能となった様々なデータを活用することが可能に。日本の資産運用にとってもオルタナティブデータ活用が大きく広がる可能性もある。

今、オルタナティブデータは、投資にとって「ブルーオーシャン」ともいえるかもしれない。

気になる新型コロナウイルスの感染拡大

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6月22日のCNNによると、新規感染者数の増加は半数以上の州で確認され、そのいくつかは一日の新規感染者数の記録を上回り続けているとこのこと。

米国は、6月21日に27,465件の新規感染数を報告。南部の急激な上昇が気になるところ。南部では、若い人たちが多く陽性に。

また、カリフォルニア州でも、新型コロナウイルス感染に伴う入院患者数が感染拡大後で最多に。先週の土曜日には、3574人が入院。同州は、一日で最も多い4515人の新規感染者数の増加。

2020年1月からホワイトハウス・コロナウイルス・タスクフォースの主要メンバーの一人として活躍しているファウチ博士の見解によると、新規感染者数の記録的増加は、第1波によるものであり、第2波ではないとのこと

米国、欧州、アジアでの新規感染者数の急激な増加は、ロックダウン緩和から再度ロックダウンに向かうのではないかという懸念から投資家のセンチメントは悪化。

今後の市場の動向において、再度ロックダウンされるのではないかという懸念(確率)がどの程度織り込まれるか注意深くモニタリングする必要がある。

気になるEU復興基金

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ロイター通信によると、2020年6月19日、EU首脳はテレビ形式による会議を開催し、欧州委員会が提案した7500億ユーロ(約90兆円)の新型コロナウイルス復興基金案を巡って協議したものの、各国の主張に隔たりが大きく、物別れに終わったとのこと。年末に向けて調整されていくような時間軸か。

1997年に成立した安定成長協定(Stability and Growth Pact=SGP)により、EU 加盟国の財政規律のための枠組みを提供。これがEU加盟国の財政を縛っているともいえる。

SGP では、93 年 11 月発効の EU のマーストリヒト条約(現リスボン条約)に定められた財政赤字の 2 つの基準(単年度の財政赤字がGDP比3%以下、公的債務が同60%以下)を順守することを加盟国に義務付けるとともに、加盟国の財政を監視することが取り決められた。

その後、ギリシャなど一部の加盟国の財政赤字が欧州債務危機を引き起こしたことから、EU は SGP の運用をより厳格化。財政赤字を予防の観点から中期的な財政目標によりフォーカス。債務比率を引き下げるための義務的な要件が定められた。また、違反国に対しては強化された制裁システムが適用されることとなった。制裁システムもすごいが、義務的な要件もなかなかのもの。

各加盟国は長期的な公的財政の持続性を確保するため構造的な財政赤字 の中期目標(medium-term objective;MTO)を国内総生産(GDP)の1%を超えないように設定することが要請される。

構造的な財政赤字が中期目標(MTO)を上回ってしまった場合、なんと当該国は構造的赤字を年平均でGDPの0.5%削減する調整過程に入ることを約束させられる。

万が一にも、当該国がMTOまたはMTO達成に向けた調整過程から大きく外れると、欧州理事会は、れらの乖離を最長で5カ月以内に取り除く方法を勧告することができる。

それでも、加盟国によって効果的な措置が取られなかった場合、欧州理事会は、欧州委員会の勧告に基づき加盟国に対してなんと制裁を課すことができる。

欧州理事会で制裁が決定されると、当該国は GDPの0.2%に相当する有利子の預託金を支払われなければならない。

ここまでは、まだ予防措置。

是正措置もある。

是正措置は、財政赤字の GDP比3%という基準値への違反が明らかになったときに発動。

最初は、予防措置のもとで課された有利子の預託金が無利子の預託金に転換される。さらに欧州理事会の勧告に沿って有効な措置が取られなかった場合にはGDPの0.2%に相当する罰金が課される。制裁は欧州委員会の勧告に基づき欧州理事会が決定する。

その後も加盟国が有効な措置を取らず赤字が拡大した場合は、GDPの0.5%以下の罰金が課される。

ここまで見てみると、経済成長のエンジンである金融政策と財政政策のうち、財政についてはかなり縛りが厳しいことが分かる。このため、以前ご覧いただいたようにGDP対比の政府の借金がどんどんと縮小。欧州が緊縮財政でブレーキを踏んでいる様子につながる。

足元、新型ウイルスの感染が急拡大し、欧州委員会が提案した「一般免責条項」の発動をEU財務相は5月23日、正式に承認。加盟国に新型コロナウイルス対策についての自由裁量を与え、EU規則で定めた政府の借り入れ上限の適用を停止している。

したがって、EUとしては再度の欧州危機を回避するためにも、各国による財政赤字拡大に引き続き一定の歯止めをかけたい。しかし一方で、 新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンで打撃を受けた経済を支えなくてはいけない。

この2つの解決策になりえるのが、「EU復興基金」。7500億ユーロのうち、5000億ユーロは補助金、2500億ユーロは融資。EUが5000億ユーロ分の債券を発行し、市場からお金を調達、被害が大きいイタリアなど南欧に回す。補助金部分は、返済不要。当該債券発行は共同債務となる意味合いもあり、EU復興基金の成立はEU域内の今後の財政出動に影響も大きいと考えられる。提案されているEU復興基金も2021~27年のEUの中期予算に組み込むため、実際にお金が届くのは21年から。

一方で、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデンの4カ国、通称「倹約4カ国(frugal four)」がコンディショナリティ(財政再建や構造改革など)と引き換えに実行する融資形式を対案として提案。

復興基金の行方は欧州経済成長にとって、エンジンの一つの財政政策がどうなっていくのか、成長エンジンとしてのEUの妙味へも影響が大きい。

米国と日本は、財政・金融良政策がフルアクセル状態なので2021年以降、中長期的に株式市場の成長が楽しみである。さて、欧州がどうなるか、引き続き要注目。

気になる米国の経済対策 (2020.06.20)

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2002年6月15日、FRBは中堅・中小企業向けの支援策である「メインストリート融資プログラム(MSLP)」について、企業に融資を行う貸主の登録受付を開始。

プログラムに参加する金融機関の登録が完了すれば、企業からの融資申請が可能となる。また、FRBは同日、非営利団体(NPO)も融資申請対象とする案も発表。MSLPは3つの枠組みに分かれており、従業員1万5,000人以下または2019年の年間売上高50億ドル以下の企業を対象に、1社最大3億ドルの融資を受けることが可能。融資額は枠組みごとに異なるが、申請が認められれば最低でも25万ドルの融資が行われ、返済期限は5年、元本の返済は2年間、利息の返済は1年間繰り延べることが可能となる。4月9日に骨子が発表されたが、これまで制度が相次ぎ修正されていたものの、実際の運用に向けた動きが開始。

MSLPは3つの枠組みを通じて、最大6000億ドル(約66兆)相当の融資債権を買い入れる。FRBのバランスシートを活用した、金融政策。中央銀行のバランスシートがどの程度膨らむのか(金融緩和の度合い)に今後も引き続き注意が必要。中小企業局(SBA)の「給与保証プログラム(PPP)」を利用するには規模が大き過ぎる企業への支援を想定。

なお、「給与保証プログラム(PPP)」は財政政策。従業員500人以下の企業が雇用を維持すれば、給与や賃料、光熱費など、最大1,000万ドル(約11億円)までは政府が肩代わりするという仕組み。最大6600億ドル(約73兆円規模)の融資(実態は補助)。この修正案「Paycheck Protection Program Flexibility Act(PPPFA)」が6月5日、トランプ大統領の署名をもって成立。

米国でも金融政策、財政政策ともフルアクセル。

2020年6月19日、FOXビジネスとのインタビューで、FRBのクラリダ副議長は物価安定と雇用最大化というデュアルマンデートを達成するには程遠く、米経済の支援に向けFRBができることはまだあると発言。「われわれは非常に積極的で先見的な措置を講じてきた。」「できることはまだある。やるべきことはもっとあると思う。」

パウエル議長は6月16日、公聴会で半期に一度の議会証言を行い、経済回復の時期や勢いについては著しい不確実性が続いていると言及。

「景気後退が長引くほど、永続的な雇用喪失や事業縮小による長期的なダメージを受ける可能性が高くなる。」

「この疫病が収まったと確信されるまでは、完全に回復する公算は低い」と指摘。

新型コロナウイルス感染「第2波」への懸念はワクチンができるまで、引き続き市場のセンチメントにネガティブに影響すると予想される。加えて、米中間の摩擦激化のリスクにも注意しておきたい。

上記の通り、米国でも財政政策、金融政策両方ともフルアクセルで積極的に経済を下支えしていくことが予想されるので、中長期的には米国株式市場全体の成長につながる可能性が高い。フェアバリューを意識しながら、市場の調整局面ではしっかりとリスクを取っていきたい。

気になるハゲタカ

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日本は3月決算の企業が多く、多くの会社が「定時株主総会は事業年度の翌日から3ヶ月以内に開催する」と定款に記載。このため、定時株主総会の開催時期は6月に集中。今年も株主総会シーズンに突入。

大和総研のレポートによると、株主総会で株主提案を受けた企業が、2019年は65社とそれまでで最多。そして、ロイター社の本日の記事によると今年の6月総会で株主提案を受けた企業数は6月19日時点で54社。過去最多となった前年実績に並び、新型コロナの影響による勢いの衰えはみえないとのこと。株主提案増加の背景にはアクティビストがいる。

アクティビストとは、「株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家」のこと。いわゆる「物言う株主」。経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等をおこなうことがある。最近では株式の保有割合が低くても、投資先企業に積極的に提言をおこなうケースが増えている模様

アクティビストはハゲタカなのか。

有名なのは、13年前のスティール・パートナーズによるブルドックソース事件。
2007年5月16日ブルドックソースに対して全株取得を目標にTOBを行うと発表。
5月18日にスティール側が5月14日以前1ヶ月平均の株価に約20%のプレミアムを付けた価額で全株取得に向けたTOBを開始。

2007年7月9日、東京高裁はブルドック側の対抗策を正当なものとして認め、逆にスティール・パートナーズについてはなんと、転売による利益確保を目的として株を購入する「濫用的買収者」であると認定し抗告を棄却。判決は「企業価値についてもっぱら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方は限界があり採用できない」とも述べている。

最高裁判所に特別抗告・許可抗告したが、いずれも棄却され、ブルドックソースへのTOBも失敗。

その後、日本の数多くの上場企業から、スティール・パートナーズは事実上、総会屋並の警戒対象として認識されているともいわれる。他人事ながら泣ける。

現在、代表的なアクティビストに、世界最大手のエリオット・マネジメント(米国)やサード・ポイント(米国)、オアシス・マネジメント(香港)、旧村上ファンドとその末裔(日本)などが有名。

アクティビストは、最近では一般に、マイノリティ出資で成熟段階にある企業を狙う。利益率が低く(例えば、ROEが8%未満でPBR1倍未満)、経営のガバナンスが脆弱である一方、安定的な中核事業があるそんな企業。投資先候補を絞り、株価下落のタイミングで株の取得。事業再編や株主還元を迫ったりなどして株価が上昇後、最終的に売り抜けるアクティビスト。すごく合理的。

本日のロイター社の記事によると、「株主総会の運営を支援する三菱UFJ信託銀行によると、今年の6月総会で株主提案を受けた企業数は19日時点で54社と、過去最多となった前年実績に並び、新型コロナの影響による勢いの衰えはみえない。しかし提案内容を精査すると、増配や自社株買いなど株主還元を求める提案から、取締役選任など広範囲なガバナンス(企業統治)改善を求める提案にシフトしている実態が浮かび上がる。新型コロナの影響で多くの企業の売り上げが急減するなか、事業継続のために手元現金の重要性が増しているからだ。」「剰余金処分に関する株主提案を受けた企業は計9社、うちアクティビストから剰余金処分の提案があったのは3社で、昨年6月総会の全体で17社、うちアクティビストからの提案が6社だったのと比べて半減している。」とのこと。

エージェンシー問題と言われる永遠の問題がある。例えば、株主と経営陣の間の利益相反。プリンシパル(例えば株主)の委託を受けたエージェント(取締役)が、プリンシパル(株主)の利益のために行動しないことによる取引(企業経営)の失敗のこと。

個人的には、企業統治に関する上記エージェンシー問題(特に遅々として経営効率を改善しない社内取締役)に対する厳しい解決策と一つとしてアクティビストの提案も十分に理解できる。