月: 2020年6月

気になる米国の経済対策 (2020.06.20)

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2002年6月15日、FRBは中堅・中小企業向けの支援策である「メインストリート融資プログラム(MSLP)」について、企業に融資を行う貸主の登録受付を開始。

プログラムに参加する金融機関の登録が完了すれば、企業からの融資申請が可能となる。また、FRBは同日、非営利団体(NPO)も融資申請対象とする案も発表。MSLPは3つの枠組みに分かれており、従業員1万5,000人以下または2019年の年間売上高50億ドル以下の企業を対象に、1社最大3億ドルの融資を受けることが可能。融資額は枠組みごとに異なるが、申請が認められれば最低でも25万ドルの融資が行われ、返済期限は5年、元本の返済は2年間、利息の返済は1年間繰り延べることが可能となる。4月9日に骨子が発表されたが、これまで制度が相次ぎ修正されていたものの、実際の運用に向けた動きが開始。

MSLPは3つの枠組みを通じて、最大6000億ドル(約66兆)相当の融資債権を買い入れる。FRBのバランスシートを活用した、金融政策。中央銀行のバランスシートがどの程度膨らむのか(金融緩和の度合い)に今後も引き続き注意が必要。中小企業局(SBA)の「給与保証プログラム(PPP)」を利用するには規模が大き過ぎる企業への支援を想定。

なお、「給与保証プログラム(PPP)」は財政政策。従業員500人以下の企業が雇用を維持すれば、給与や賃料、光熱費など、最大1,000万ドル(約11億円)までは政府が肩代わりするという仕組み。最大6600億ドル(約73兆円規模)の融資(実態は補助)。この修正案「Paycheck Protection Program Flexibility Act(PPPFA)」が6月5日、トランプ大統領の署名をもって成立。

米国でも金融政策、財政政策ともフルアクセル。

2020年6月19日、FOXビジネスとのインタビューで、FRBのクラリダ副議長は物価安定と雇用最大化というデュアルマンデートを達成するには程遠く、米経済の支援に向けFRBができることはまだあると発言。「われわれは非常に積極的で先見的な措置を講じてきた。」「できることはまだある。やるべきことはもっとあると思う。」

パウエル議長は6月16日、公聴会で半期に一度の議会証言を行い、経済回復の時期や勢いについては著しい不確実性が続いていると言及。

「景気後退が長引くほど、永続的な雇用喪失や事業縮小による長期的なダメージを受ける可能性が高くなる。」

「この疫病が収まったと確信されるまでは、完全に回復する公算は低い」と指摘。

新型コロナウイルス感染「第2波」への懸念はワクチンができるまで、引き続き市場のセンチメントにネガティブに影響すると予想される。加えて、米中間の摩擦激化のリスクにも注意しておきたい。

上記の通り、米国でも財政政策、金融政策両方ともフルアクセルで積極的に経済を下支えしていくことが予想されるので、中長期的には米国株式市場全体の成長につながる可能性が高い。フェアバリューを意識しながら、市場の調整局面ではしっかりとリスクを取っていきたい。

気になるハゲタカ

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日本は3月決算の企業が多く、多くの会社が「定時株主総会は事業年度の翌日から3ヶ月以内に開催する」と定款に記載。このため、定時株主総会の開催時期は6月に集中。今年も株主総会シーズンに突入。

大和総研のレポートによると、株主総会で株主提案を受けた企業が、2019年は65社とそれまでで最多。そして、ロイター社の本日の記事によると今年の6月総会で株主提案を受けた企業数は6月19日時点で54社。過去最多となった前年実績に並び、新型コロナの影響による勢いの衰えはみえないとのこと。株主提案増加の背景にはアクティビストがいる。

アクティビストとは、「株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に積極的に提言をおこない、企業価値の向上を目指す投資家」のこと。いわゆる「物言う株主」。経営陣との対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘等をおこなうことがある。最近では株式の保有割合が低くても、投資先企業に積極的に提言をおこなうケースが増えている模様

アクティビストはハゲタカなのか。

有名なのは、13年前のスティール・パートナーズによるブルドックソース事件。
2007年5月16日ブルドックソースに対して全株取得を目標にTOBを行うと発表。
5月18日にスティール側が5月14日以前1ヶ月平均の株価に約20%のプレミアムを付けた価額で全株取得に向けたTOBを開始。

2007年7月9日、東京高裁はブルドック側の対抗策を正当なものとして認め、逆にスティール・パートナーズについてはなんと、転売による利益確保を目的として株を購入する「濫用的買収者」であると認定し抗告を棄却。判決は「企業価値についてもっぱら株主利益のみを考慮すれば足りるという考え方は限界があり採用できない」とも述べている。

最高裁判所に特別抗告・許可抗告したが、いずれも棄却され、ブルドックソースへのTOBも失敗。

その後、日本の数多くの上場企業から、スティール・パートナーズは事実上、総会屋並の警戒対象として認識されているともいわれる。他人事ながら泣ける。

現在、代表的なアクティビストに、世界最大手のエリオット・マネジメント(米国)やサード・ポイント(米国)、オアシス・マネジメント(香港)、旧村上ファンドとその末裔(日本)などが有名。

アクティビストは、最近では一般に、マイノリティ出資で成熟段階にある企業を狙う。利益率が低く(例えば、ROEが8%未満でPBR1倍未満)、経営のガバナンスが脆弱である一方、安定的な中核事業があるそんな企業。投資先候補を絞り、株価下落のタイミングで株の取得。事業再編や株主還元を迫ったりなどして株価が上昇後、最終的に売り抜けるアクティビスト。すごく合理的。

本日のロイター社の記事によると、「株主総会の運営を支援する三菱UFJ信託銀行によると、今年の6月総会で株主提案を受けた企業数は19日時点で54社と、過去最多となった前年実績に並び、新型コロナの影響による勢いの衰えはみえない。しかし提案内容を精査すると、増配や自社株買いなど株主還元を求める提案から、取締役選任など広範囲なガバナンス(企業統治)改善を求める提案にシフトしている実態が浮かび上がる。新型コロナの影響で多くの企業の売り上げが急減するなか、事業継続のために手元現金の重要性が増しているからだ。」「剰余金処分に関する株主提案を受けた企業は計9社、うちアクティビストから剰余金処分の提案があったのは3社で、昨年6月総会の全体で17社、うちアクティビストからの提案が6社だったのと比べて半減している。」とのこと。

エージェンシー問題と言われる永遠の問題がある。例えば、株主と経営陣の間の利益相反。プリンシパル(例えば株主)の委託を受けたエージェント(取締役)が、プリンシパル(株主)の利益のために行動しないことによる取引(企業経営)の失敗のこと。

個人的には、企業統治に関する上記エージェンシー問題(特に遅々として経営効率を改善しない社内取締役)に対する厳しい解決策と一つとしてアクティビストの提案も十分に理解できる。

気になるポートフォリオ運用(成長エンジンの違い)

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気になるポートフォリオ運用(成長のエンジン)において、2015年5月末から2020年5月末までの過去5年間、(円換算後)米国株式は平均で年+5.8%の成長、国内株式は平均で年+3.0%の成長であった一方、欧州株式は年▲2.8%であったと紹介した。

「この違いは何?」と考えることで、将来を予測し、ポートフォリオ運用で成長のエンジンをある程度切り替えていくことも可能になるのではということであった。

違いは何か。答えは、ポリシーミックス(政策ミックス)である。

一国の(マクロ)経済運営を考えたとき、政府中央銀行が重要なプレイヤー。それぞれのプレイヤーが使う道具がそれぞれ財政政策金融政策

一つ目の財政政策は、選挙によってえらばれた政治家が国会で議論し、成立した予算案に基づいた政府支出のこと。一般的に、景気循環と反対に政府が追加的な需要を作り出したり、減らしたりする。景気が悪くなってくると、増える公共事業等。

国内総生産 = 家計の消費 + 企業の投資+政府の財政出動+輸出-輸入

もう一つの金融政策は、選挙で選ばれない(高学歴の)日銀マンが「通貨の番人」としてあらゆる手段(政策金利や中央銀行のバランスシート)を使って信用を供与したり、収縮させたりする政策のこと。直接的には民主主義の基本の多数決の原理の外で、政府に負けず劣らず、一国の経済運営に影響を与えることができるのが、中央銀行。(日銀総裁の任命は、政府が人事案を国会に提出して、その後、衆議院・参議院の両院の同意を得て行われるという立て付け。)

話を戻して、米国/日本と欧州の違いは、この政策組み合わせ。

コロナウイルス感染拡大に伴う対策の以前、米国は過去5年間、金融政策はブレーキをかけ気味であったものの、財政政策のアクセル(減税や財政出動)を全力で踏み込んだ。

日本は過去5年間、財政政策はブレーキをかけ気味であったものの、金融政策のアクセル(金融緩和)を全力で踏み込んだ。

一歩で、欧州は、金融政策のアクセルをちょっと踏み込んだのみで、財政政策はなかなかのブレーキ。

その結果が、2020年5月末までの過去5年間、(円換算後)米国株式は平均で年+5.8%、国内株式は平均で年+3.0%であった一方、欧州株式は年-2.8%となった要因の一つと考えられる。

いくつかグラフをご紹介。

まず、財政政策の比較。GDP対比の政府の借金の推移。欧州が緊縮財政でブレーキを踏んでいる様子が見える。

<米国のGDP対比の公的債務の推移>

<欧州のGDP対比の公的債務の推移>

次に、金融政策の比較。GDP対比の中央銀行のバランスシートの大きさの推移。青色が日本銀行(日本)、緑色がFRB(米国)、赤色がECB(欧州)。

日銀黒田総裁の金融政策でのフル・アクセルが見える。青色がどんどん上に。

財政政策が拡張的であるか、金融政策が緩和的であるかを踏まえて、両方ともアクセルが踏まれていれば、株式市場は一般に成長する可能性が高い。片方のアクセルだけでも、しっかり踏み込まれていれば、やはり成長する可能性が高い。

今後のポートフォリオ運用での成長エンジン選択の際には、財政政策と金融政策の具合を確認したい。

気になるポートフォリオ運用(成長のエンジン)

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これまで、気になるポートフォリオ運用(1)、(2)において、伝統的なポートフォリオの目安となる株60% / 債券40%の組み合わせで運用をした場合どのような期待収益率となるかを見てきた。

市場の成長をとらえる株式60%の部分で何を選ぶかが、ポートフォリオの収益性に大きく影響を与える。「成長のエンジン」は何がよいのかという観点でいくつかアイディアをご紹介したい。

ここでも、国内株と同様に、日本国内で容易に売買できる東証上場ETFの活用を考え、主要なETFの過去5年間(2015年5月末~2020年5月末)のプライス・リターン、トータル・リターン、年率のトータル・リターンを計算した。

その結果は以下の通り。

(為替ヘッジをしていないETFなので、為替の影響がパフォーマンスの数字に含まれている。)

過去5年間、成長のエンジンを何にするかによって、なんと株60%の部分は年率で-7.4%から+13.1%まで違いがあった。(5年間の累計だと、-31.8%から+85.5%まで違いがあった。)

ぱっと見、NASDAQ-100指数に連動するETFを成長のエンジンとすれば、2015年5月末から2020年5月末までの5年間で+85.5%になって「素晴らしい!やっぱりNASDAQ。アマゾンに、アルファベット(Google)、アップル、テスラ、スターバックスなど最高!」と思うが、時期をずらすと見え方は全く異なる。2000年3末から2005年3月末までの間、NASDAQ-100指数(円換算)はなんと-64.5%。年率でも-18.71%。「NASDAQ、怖い。」となる。

リスク許容度にもよるが、ポートフォリオ運用で、ある程度安定的に運用することを考えるとき、やはりNASDAQ-100指数は強烈すぎる可能性がある。ねらい目は、日本や米国、欧州といったより大きな国や共同体の市場全体の成長性をエンジンとすることで、成長のエンジンが強烈に逆噴射することは避けられる可能性が高い。

興味深いのは、S&P500指数(米国株式)に連動するETFや、日経平均株価(日本株式)に連動するETFが5年間累計でそれぞれ+32.3%と+16.0%(円建て)。年率でも、+5.8%と+3.0%であった。その一方で、ユーロ・ストックス50・インデックス(欧州株式)に連動するETFは5年間累計で-13.0%。年率でも-2.8%であった。

なぜ、過去5年間、米国/日本の株式市場全体の成長は、欧州のそれと比べて高いのか。(言い換えると、欧州はなぜ株式市場全体の成長はそれほど高くないのか。)

こういった違いをある程度正しく理解し、予測できれば、成長性のエンジンを切り替えてポートフォリオ運用を行うことも可能になる。

米国/日本と欧州は何が違うのか。明日に続く。

気になるポートフォリオ運用(2)

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前回のポートフォリオ運用のパフォーマンスの考え方の誤りと改善方法は以下の通り。

ポイントは、「トータルリターン」と「リバランス」。

トータルリターン

まず、「気になるポートフォリオ運用(1)」での計算の誤りであるが、結論から言うと分配金がパフォーマンスの計算に入っていないことである。株価指数などは「トータルリターン」という断りがない限り、通常、「プライスインデックス」といわれるものである。分配があった場合、プライスインデックスの指数はその分低下する。例えば、指数が100円のものが3円の分配金があると、その直後(権利落ち日の直後)指数は(その他の条件が同じであれば)97円になる。一方、投資家の手元にはその分配金が入ってくるので、それを考慮してパフォーマンスを把握する必要がある。残念ながら、足元、東証の上場ETFのトータルリターンを計算してくれる無料ツールはないが、投資判断の際は必ず分配金利回り(株式の場合は配当利回り)を確認することが重要。

具体的には、株式やETFの場合には四季報もしくは適時開示情報を参照の上、大雑把で良いので分配金利回りを確認したい。

例えば、今回活用している<2512>と<2514>について、次の半年についても同じ分配金と仮定すると、おおよその分配金利回りは以下の通り計算できる。

  • NF外債ヘッジあり <証券コード:2512>
    • 年率1.39% = 730円÷(6月16日終値 1049円×100口)×2(年率)
  • NF外株ヘッジあり <証券コード:2514>
    • 年率0.75% = 410円 ÷(6月16日終値 1091円×100口)×2(年率)

分配金利回りも刻々と変化するため、上記の分配金利回りが過去も将来も同じとは仮定はできないが、過去のパフォーマンスを見る際には把握しておきたい。

プライスインデックスのパフォーマンスに分配金利回りを調整したものが、トータルリターンである。

リバランス

ポートフォリオ運用のパフォーマンス改善にあたって、役に立つ考え方が「リバランス」である。あらかじめ定めた期間で相場の変動などにより変化した投資配分の比率を調整すること。ポートフォリオの一部を売却したり、買い増しをすることによって行う。

例えば、外国債券が好調で、外国株式が苦戦している場合、当初、外国債券40%と外国株式60%の割合で投資を開始したとしても、1年後にポートフォリオ全体に占める割合が45%と55%になっているとする。この場合、1年後の時点で、好調であった外国債券を一部売却し、苦戦している外国株式を一部購入することで、当初の外国債券40%と外国株式60%の割合に戻すことを「リバランス」という。

一般的に、株のほうが債券よりも価格の変動幅が大きい(ボラティリティが高い)ので、債券の累積リターンはクーポンの存在から比較的安定的に増加していく一方、株が相対的に苦戦しているタイミングでは株の買い増しということになる。また、株が相対的に好調なタイミングでは一部売却により益出しをして、債券にその売却分をよけておくことになる。結果として、株が債券に対して相対的に高くなったら売却し、安くなったら買い増すということになる。

株価指数が中長期的には債券指数程度は上昇するという前提を置くのであれば、株価指数を安く買って高く売る事を繰り返すので、ポートフォリオ運用のパフォーマンス改善につながる。

60/40のポートフォリオで年1回のリバランスありの2001年1月末から2020年5月末までのポートフォリオリターンは、少し長い計算をすると年率2.2%。

加えて、<2514>と<2512>の分配金利回りをそれぞれ1.39%と0.75%と仮定し、2000年1月末から2020年5月末までのプライスリターンを中長期のプライスリターンと仮定すると、60/40のポートフォリオの中長期のトータルリターンは円で年率3.2%となる。この水準リターンであれば、年金基金や機関投資家の目標リターンとしては十分。そういった投資家ではリスク量の計測とリスク/リターンの最適化に進んでいくことになる。

一方、個人投資家によっては、もっとリスクを取ってでもリターン水準を上げたいというケースも想定される。その場合、アプローチは主に2つある。

一つは、「目利き」勝負で、投資対象を選ぶことでより高いリターンを目指す方法。基本的にバイ&ホールド

もう一つは、「タイミング」勝負で、投資対象はよく知られているものだが(例えば、為替市場)、売り買いを適切なタイミングで行うことで利益を積み重ねる方法

おすすめは、「目利き勝負」で、マーケットに留まる時間を長くすること。

以下は、Benjamin Graham のアドバイス。

「フェアバリュー(妥当と思われる価格)より安ければ買い、フェアバリューを超えてくれば売る。」財務分析を通じて企業価値を計算して、フェアバリューを特定することが重要。

By timing we mean the endeavor to anticipate the action of the stock market—to buy or hold when the future course is deemed to be upward, to sell or refrain from buying when the course is downward. 

By pricing we mean the endeavor to buy stocks when they are quoted below their fair value and to sell them when they rise above such value. 

A less ambitious form of pricing is the simple effort to make sure that when you buy you do not pay too much for your stocks. This may suffice for the defensive investor, whose emphasis is on long-pull holding; but as such it represents an essential minimum of attention to market levels.

We are convinced that the intelligent investor can derive satisfactory results from pricing of either type. 

We are equally sure that if he places his emphasis on timing, in the sense of forecasting, he will end up as a speculator and with a speculator’s financial results.” 
– Benjamin Graham

ちなみに、Benjamin Graham(ベンジャミン・グラハム)氏は、アメリカ合衆国の経済学者。「バリュー投資の父」「ウォール・ストリートの最長老」と呼ばれる投資家で、学生時代に唯一彼からA+の成績をもらった教え子に現在、個人資産7兆円以上を有するウォレン・バフェット氏がいる。

気になるポートフォリオ運用(1)

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性格の異なった複数の銘柄へ投資することにより、より安定した収益を上げるための投資の方法としてポートフォリオ運用がある。

機関投資家ではポートフォリオ運用が基本。これは、個々の銘柄は、マーケット環境の悪化や企業業績の変動により、株価の大幅な変動を避けられないが、相関の低い複数の銘柄を組み合わせることにより、一銘柄の株価が急落しても他の銘柄でカバーできるということがそのアイディアの背景。

分散投資により、市場全体の成長を幅広くとらえることができるといったメリットが、ポートフォリオ運用の特徴。

ここで、コストがそれほどかからないETFを活用することでポートフォリオ運用の実現を考える。複数回に渡って解説するので、もしよければ、最後までお付き合いいただきたい。くれぐれも、最初の記事で投資行動に出ないようにご注意を。

伝統的にポートフォリオ運用というと、株式60%、債券40%という割合が目安として参照されることがある。(もちろん、機関投資家は金融変数の想定やリスク許容度に基づいて、割合を最適化している。)

ここでは、話を単純にして、市場全体の成長を幅広くとらえるため、以下の2つのETFを投資対象として考える。

2512: NF外債ヘッジあり。ベンチマークは、FTSE世界国債インデックス(除く日本、円ヘッジ・円ベース)
2514: NF外株ヘッジあり。ベンチマークは、MSCI-KOKUSAI指数(円ベース・為替ヘッジあり)

今回、外国債券と外国株式に幅広く投資することで海外の市場全体の成長をとらえることを考える。

為替の影響を取り除くため、円ヘッジありのETFを活用することを想定。なお、上記2つのETFのトラックレコードはそれほど長くないので、ベンチマークを参照の上、以下分析を進める。

単純に2000年1月末に外株(MSCI-KOKUSAI指数)に60%、外債(FTSE世界国債インデックス)に40%投資して、その後、保有割合を調整しなかったとすると、その60/40ポートフォリオのパフォーマンスは以下の通り。

外債は2000年1月末から2020年5月末までの20年強で年率+3.0%程(円建て、円ヘッジ後)のパフォーマンスであるが、外株は年率+0.8%程(円建て、円ヘッジ後)のパフォーマンスであった。

60/40のポートフォリオでは、年率1.9%程(円建て)のパフォーマンス。いまいちパッとしないリターン。月次パフォーマンスの分布は以下の通り。月次リターンの平均は約+0.1%。

このパッとしないリターンには理由がある。

明日以降、上記の分析にどのような誤りがあるか、また、どのような方法を活用することである程度数学的にリターンが改善するかご紹介したい。乞うご期待。

気になる新機能「CFAに質問」

14+

本ブログでは、米国証券アナリスト(CFA)、日本証券アナリスト検定会員、経営学修士号(MBA)とファイナンス等の実務/勉強を重ねてきた筆者が投資にあたって面白いと思った情報を継続的にご紹介しています。

今回、是非、皆様がご投資にあたって気になっているトピックや銘柄、疑問に思っていること等を教えていただき、筆者がそれにご回答差し上げる双方向的な運営を行いたいと思い、CFAに質問のページを作成しました。

「CFAに質問」のページはこちら

名前やメールアドレスのご記入は任意ですので、ご投資にあたって気になっているトピックなどお気軽にお知らせください。

今後とも引き続きFinepresa(フィネプレサ)をよろしくお願い致します。

気になる新型コロナウイルスのワクチン開発状況 (2020.06.13)

14+

足元、新型コロナウイルス感染第2波の兆候が増えていることで市場心理を圧迫しているが、感染第2波を抑え込む上で重要となる新型コロナウイルスのワクチン開発状況をまとめた。

新型コロナウイルスのワクチンが確立された場合、先行き不透明感は大幅に低減し、その後株価の急上昇の可能性がある。

ワクチン最有力候補の一つがバイオ医薬大手の米モデルナのものである。
モデルナのワクチン候補薬は、mRNA(核酸)ワクチンと呼ばれる種類のもので、活性化もしくは非活性化さらたウイルス自体を実際に使うのではなく、健康な細胞にコロナウイルスの抗体をどのように作るか指示を与えるという技術を使ったワクチンである。

獣医学ではmRNAは使われているが、人間への投薬はまだ承認されたことがないものである。ただ、mRNAはその開発スピード(一般的にmRNAでは新しいウイルス型の確定、ゲノム配列の確認ができれば、ワクチン設計は比較的容易と言われる。)や、早期治験の患者への理論上の健康リスクは抑制されることから、他の早期のワクチン候補でも使われている。

モデルナは6月12日、マウスを作った新型コロナウイルスワクチンの実験で、症状が重篤化するリスクが抑えられたほか、1回の投与で新型コロナへの感染防止効果が得られたと発表。今回の研究では、生後6週間のマウスに保護免疫反応を誘発するのに十分ではないと考えられる用量も含め、ワクチンを1回または2回投与し、その後マウスをウイルスにさらすことで実施した。

コロナ感染症(COVID-19)の原因となる新型コロナウイルスの近縁種であるSARSウイルス向けワクチンに関するこれまでの研究では、同ワクチンを接種した人が後に病原体にさらされた場合、十分な免疫反応が得られないと一層重篤な症状を引き起こす恐れがあり、こうしたリスクの克服が健康な人を対象とした大規模臨床試験に進むために重要とみられている。

モデルナは6月11日、7月にアメリカ国立アレルギー・感染症研究所の協力を得て、3万人を対象としたコロナワクチンの治験を開始すると発表。治験は最終段階に向かう。これにより、モデルナは米国で最初のコロナワクチン候補の大規模臨床試験を行う企業に。

ワクチン候補の開発はものすごいスピードで進んでいる。他の企業では、ジョンソンエンドジョンソンは、7月後半にもワクチンの治験を始める予定。また、アストラゼネカとその研究開発のパートナーであるオックスフォード大学は、6月にも最終ステージの治験を開始する予定。

気になる最近のマーケットの下落 (2020.06.12)

16+

20200年6月11日の米株式相場は大幅安。ダウ平均は6.9%安、ナスダック総合指数は5.3%安、S&P500種は5.9%安。経済の先行きを巡る不安から、最近の速いスピードでの株高に急ブレーキ。

市場ではこの日の売りは最近の相場上昇ペースの速さによる反動が大きいと言われているが、米国の一部の州で新型コロナウイルス感染第2波の兆候が増えていることも市場心理を圧迫。

まさに先日、想定していた通りの展開。
「個人的には、マーケットの回復する速度が速すぎると心配。マーケットは今後リスクシナリオの変化に敏感になる可能性がある。ヘッジ銘柄を保有しつつ、今後の若干の調整局面に備えて、守りを固くしておき、来る調整局面ではファンダメンタル ズ対比で妙味がある銘柄についてしっかりと投資をしたいところか。」

個人的な経済見通しは、足元の状況においても大きく変わっていない。
①「感染第2波」が起きれば、米経済の試練。景気回復は一段と弱まり、経済再生の道のりも極めて長くなる。②一方で、「感染第2波」が来なければ、米国経済は年後半を通して着実に回復。③そして、「感染第2波」の可能性を見通すのにあたり、ワクチンの出現も重要な要素に。

ダウ株価指数が史上最高値であった2020年2月12日を100として、日経平均、マザーズ指数、ナスダック指数、ダウ株価指数を描いたグラフは以下の通り。マーケットの回復の速度が確認できる。赤色が日本の株価指数。青色が米国の株価指数。デジタル特需に基づき、テクノロジー銘柄が多い東証マザーズ指数や米国ナスダック指数は早いスピードで回復している。

コロナウイルスの影響で減速した経済活動の影響を株価の面ではほぼほぼ取り返しているのが分かる。東証マザーズに至っては、3月のロックダウン本格化の前より20%近く上昇。この市場の評価が転換する速度が速すぎると考えられる。単純な質問で、私たちの生活(経済活動の水準)はロックダウン本格化前とほとんど同じだろうか。

加えて、新型コロナウイルスのワクチンができてない中、新型コロナウイルスの感染第2波の可能性、米中摩擦の激化の可能性は先行き不透明感を高めている。

このため、合理的な価格形成を想定すると、単純で迅速な株価回復にはなりにくい。

なお、ムニューシン米財務長官は11日、米経済専門局のCNBCに対し、「(感染第2波は)さらにダメージを広げる。経済の打撃だけではない。今のところ持ちこたえている医療でも問題が起きる」と話し、「経済を再び閉鎖するわけにはいかない」と言明。

足元、バリュエーションが高くなっている可能性が高く、ファンダメンタルズが堅固な魅力的な銘柄は、これまで割高でなかなか手が出しにくい状況であった。この先の調整局面において、気になる銘柄はチャンスがあれば、ファンダメンタルズ対比で魅力的な価格でしっかりと拾っていきたい。

気になるFRBの経済見通し (2020.06.11)

14+

FRBが経済見通しを発表するのは2019年12月以来で、新型コロナウイルス危機後では初めて。マクロ経済の見通しで投資の参考となりそうな部分を以下、抽出。

FRBの経済見通しでは、米国のGDPは2020年6.5%縮小すると予想。
景気回復が今年下半期に始まり、2021年に本格化、今後数年間続くと予測。2021年の経済成長率予想をプラス5.0%とした。
失業率は、2020年末で9.3%、2021年末で6.5%、2022年末で5.5%に低下すると見込んだ。

利上げの見通しについては、 少なくとも2022年まで金利をゼロ近辺に維持するとの見通し。“We’re not even thinking about thinking about raising rates.”(「我々は、利上げについて考えようと考えたこともない。」)とも言及。「検討することを検討したこともない」という表現で、足元、非常にリモートな確率であることを表明。

米国では2月以降、2000万人以上が失業しており、パウエル議長は、そうした人々が再び職に就くには何年もかかる可能性があるとも指摘。
「長い道のりだ。しばらく時間がかかる」と述べた。

個人的には、米雇用統計の非農業部門就業者数(前月比)については以下のロイター社のグラフがとても分かりやすい。

その上で、パウエル議長は「労働市場と経済を支えるためFRBの政策手段を活用することが可能であり、完全に回復するまで活用できる」と表明。FRBの政策手段を活用することで、労働市場を昨年末の状況に回復させるために取り組むとした。

金融政策で労働市場をしっかりと支えるというFRBのデュアルマンデートに則した強い決意が確認できる。

そして、緩和的な金融政策は一般的に株価を上昇させる(金融相場)FRBは、金融市場に動揺が広がれば利下げなどで対処する。この関係性ゆえに、通称「グリーンスパン・プット」と呼ばれる。これは、当局者の度重なる否定にもかかわらず、市場がその存在を信じ続ける米金融当局の政策スタンスである。(なお、グリーンスパン・プットは厳密な意味では利下げでの株価上昇であるが、足元はマイナス金利となるさらなる利下げにはFRBは抵抗感があるようである。ここでは緩和的な金融政策による株価上昇の意。)

なお、資産買い入れプログラムについても、米国債で月間約800億ドル、政府機関債および住宅ローン担保証券(MBS)で月間400億ドルという「現在のペース」を維持すると明言。今後購入のペースが引き上げられたり、他の措置で補完される可能性もある。

パウエル議長は会見で「可能な限り力強い景気回復を確実にするため、FRBはあらゆる政策手段を駆使することにコミットしている」と再表明。